探査機エウロパ・クリッパーが完成。その目的と探査計画。木星の衛星の海と地球外生物を調べる旅へ

2020年7月4日に撮影した木星と四大衛星。左から、カリスト、イオ、ガニメデ、エウロパ。機材:EOS 9000D

これは私が2020年に撮影した天体写真です。中央に写っている大きな明るい星は木星。その両側に2つずつ小さな星がありますが、これがガリレオ衛星とも呼ばれる木星の四大衛星で、左からカリストイオガニメデエウロパという名前です。

今回はこの右端の衛星「エウロパ」を探査するための探査機「エウロパ・クリッパー」のお話です。

 

NASAの探査機エウロパ・クリッパーが完成



昨日のニュースですが、NASAが開発中だった探査機エウロパ・クリッパーがJPL(ジェット推進研究所)にて完成したとのことです。打ち上げは2024年ということでまだまだ先なのですが、私も楽しみにしている探査なので、ワクワクが止まりません。

NASAのエウロパ(木星の衛星)探査機「エウロパ・クリッパー」が完成。CREDIT:NASA/JPL-Caltech/Johns Hopkins APL/Ed Whitman

打ち上げ予定日は2024年10月10日。
ケネディ宇宙センターからロケット「ファルコンヘビー」で打ち上げられることになっています。
木星への到着はその6年後。そこから4年かけて木星の衛星・エウロパの探査を行います。

木星の第2衛星・エウロパってどんな星?

木星の第2衛星・エウロパの写真。(ガリレオ探査機撮影)
NASA/JPL/DLR, Public domain, via Wikimedia Commons

◆エウロパのデータ
 発見日:1610年1月8日 ガリレオによる
 平均公転半径:671,100 km
 公転周期:3日13時間13.7分
 直径:3,202.739 km
 質量:4.800 ×1022 kg
 自転周期:3日13時間13.7分(公転と同じ)
 ※Wikipediaより引用

 
エウロパ・クリッパーのターゲットはエウロパ。木星の第2衛星であるエウロパを探査するため「だけ」に作られました。

木星の衛星は2022年現在、80個が発見されておりますが、エウロパはその中で2番目に発見された衛星であり、大きさもは4番目、軌道も内側から6番目と、数字的には地味でこれと言った特徴の無い衛星ですよね。NASAはそんな衛星を何故ターゲットに選んだのか?

とても簡単です。

エウロパは、太陽系で最も「地球外生物」が存在する可能性が高い天体だから

です。

エウロパの表面はすべて氷で覆われています。水の氷です。H2Oです。かねてから氷の下には大量の液体の水があるかもしれないと言われており、1995年から始まった探査機ガリレオによる調査では、エウロパ表面の形状から、表面の亀裂より水が噴出している可能性が示されていました。そして、2013年、ついに決定的な証拠を掴みました。アメリカのハッブル宇宙望遠鏡が、間欠泉のように吹き出している大量の水蒸気を検出したのです。これは、人類が初めて地球以外の天体で液体の水の存在を発見した瞬間でした。

液体の水があるとなると、生命が存在する可能性が高くなります。かつては、「太陽光が届かない天体に生物はいない」という考えが有力でしたが、地球においても、太陽光が届かない深海において、独自の生態系が確立していることが発見され、この常識が覆されました。有機生命体の存在に太陽光は必要ないのです。

氷の外殻の厚みを含めたエウロパの内部構造には様々な説がありますが、有力な説では氷の下は全て液体の水であり、氷の外殻と液体の水の下にあるマントルは分離されていると言われています。そして液体の水は3×1018 m3とも言われており、これは地球の海の体積の数倍にあたります。

そして、内部のマントルには潮汐力によるものと思われる熱源が存在します。すなわち、内部海の底は暖かい。
そんなところに生物が居ないわけがない、という人もいるようです。

エウロパ・クリッパーはそんな魅力的な天体・エウロパを調査し、地球外生物の存在を探るために作られました。



 

探査機エウロパ・クリッパーの探査計画と観測装置

さて、ここで探査機エウロパ・クリッパーの探査計画を簡単に説明しましょう。

エウロパ・クリッパーは2024年10月にケネディ宇宙センターから打ち上げられ、2030年4月に木星に到着する予定です。6年の長い旅ですね。そして観測期間は4年の予定です。

クリッパーというぐらいだから、着陸して表面物質の採取をするのかと思ったのですが、残念ながら今回のミッションに着陸は入っていません。ランダーではなく、オービターなんですね。木星を周回しながら、エウロパのフライバイを50回ほど繰り返し、情報を集めていくようです。

エウロパをフライバイするエウロパ・クリッパーのイメージ図。
CREDIT : NASA/JPL-Caltech

エウロパ・クリッパーには、カメラや分光器、レーダーなど、様々な観測装置が取り付けられる予定になっています。

◆搭載が予定されている測定機器
・撮像装置(カメラ)
・熱放射撮像システム(赤外線カメラ)
・イメージング・スペクトロメーター(分光器)
・磁場サウンディングプラズマ装置(PIMS)
・磁場内部探査装置 (ICEMAG)
・地下・海観測レーダー
・質量分析計
・地表ダスト質量分析装置
・表面・周辺環境測定装置

これらの測定機器を使い、以下のような調査が予定されています。

・氷の地殻の厚さを測定
・内部海の深さを測定
・内部海の塩分濃度を測定
・表面構造を詳細にキャプチャーする
・重力場を測定する

NASAの探査機「エウロパ・クリッパー」。JPLにて。CREDIT:NASA/JPL-Caltech/Johns Hopkins APL/Ed Whitman

 
フライバイするだけでこれだけのことがわかるんですね。素晴らしい。
8年後、どんな情報が送られてくるのか、楽しみですね!

 
有名なアーサークラークの映画「2010年宇宙の旅」の最後の方に、「(エウロパには)決して着陸してはならない」という衝撃的なセリフがありましたが、それはエウロパには進化中の生命体が居たからだったような記憶があります。

エウロパに生物が居る可能性が高まったのは近年の探査によるものなのですが、アーサー・C・クラークが1982年に執筆したこの原作に、なぜそんなセリフが出てきたのかを考えるととても興味深いですね。

 
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