これまでの人類の科学技術において、最も速い速度で移動した人工物はなんだと思います?
新幹線? コンコルド? 戦闘機? ロケット?
どれも違います。
これが結構面白い話だったので、今回は高速で移動する人工物のお話をしたいと思います。
日常的な乗り物の速度
まずは日常的に私たちが見ることができる乗り物の速度を列挙してみましょう。
■車(一般の乗用車) 200km/h程度
■車(マクラーレンF1) 386km/h
■車(SSC トゥアタラ) 532km/h
■新幹線(はやぶさ) 320km/h
■旅客機(B737) 840km/h
■旅客機(B787) 916km/h
■旅客機(コンコルド) 2200km/h
■戦闘機(F-15E) マッハ 2.5(約3087km/h)
■実験機(X-15) (有人飛行において)マッハ 6.70 (約7274km/h)
と言う感じです。
今はなき超音速旅客機コンコルドでさえ時速2200kmなのに、時速7274kmで飛行する航空機があるのには驚きました。
ロケットの速度
ここからはちょっと桁が違います。
地球の重力を振り切って上昇するロケットの速度です。
■サターンV(アポロ11号の打ち上げ) 40,300km/h 1969年
■タイタンIIIE(ボイジャー1号打ち上げ) 97,200km/h 1977年
■人工衛星を軌道に乗せるロケット 28,440km/h
やはり宇宙を目指す人工物はスピードの桁が違いますね!
さて、これらを踏まえて本題に入りましょう!
地球上で史上最速の人工物は「マンホールのフタ」
ここからは史上最高速度を記録した人工物のお話です。
地球上において、これまででもっとも速い速度で移動した人工物、
それは、なんと、
「マンホールのフタ」
です!
「なんだよマンホールのフタって。ふざけんなよ」
と思うでしょうが、これは事実なのです。いや、ただのマンホールの蓋ではありません。核爆弾の実験場の核爆発の爆風で吹っ飛んだマンホールのフタなのです。
1957年7月26日、アメリカのネバダ核実験場において、核爆弾の実験が行われました。実験の名は「パスカルA」。その実験は、深さ150mの縦穴の中に核爆弾を置き、その穴をマンホールのフタのような重さ900kgの分厚い鉄板を溶接して塞ぐという方法でした。
そして起爆した瞬間、あっというまにそのマンホールの蓋は上空に吹き飛ばされ、見えなくなりました。
そのマンホールのフタの勢いに興味を持ったスタッフが、2回めの実験「パスカルB」の際にハイスピードカメラを設置し、フタの挙動を記録しました。
しかし、またしても一瞬で上空に消え去り、カメラが捉えたフタは1コマのみ。1コマでは速度の算出ができないのですが、フレームの外に出たことは間違いないため、最低でも時速約20万kmは出ていた、と結論づけられています。
もう一度書きます。
マンホールのフタの速度は200,000km/hだったそうです。
アポロ11号を月まで送り出したロケットは、40,300km/h。
ボイジャーを太陽系外まで送り出したロケットは、97,200km/h。
マンホールのフタは、200,000km/h。
とんでもないマンホールです!
脱出速度というものがあります。天体の表面から垂直にものを打ち上げたとき、その天体の重力を振り切って宇宙に飛び出すために必要な初速が脱出速度です。地球からの脱出速度は第2脱出速度と言われていて、太陽系からの脱出速度は第3脱出速度と言われています。
第2脱出速度 = 40,300 km/h
第3脱出速度 = 60,100 km/h
これだけの初速があれば、地球から、そして太陽系からも脱出できます。
話を戻してマンホールのフタです。1957年のフタは初速が200,000km/hです。太陽系脱出速度の3倍です!
もし、空気との摩擦で蒸発してなかったと仮定するなら、この67年間でどこまで飛んでいったことか・・・
誰かが計算しておりましたが、太陽系ははるか昔に脱出して、太陽−海王星間の何倍もの距離の場所に航海中とか。なんと、太陽系を脱出した初めての人工物はボイジャーではなかったのかもしれません!
まあ、ほとんどの科学者は大気中で燃え尽きて蒸発してしまったと考えていますので、ありえない話なのかもしれませんが、地球で生まれたマンホールの蓋が銀河系を突き進んでいると考えると面白いですね!
宇宙空間での史上最速を記録したのは太陽探査機ソーラー・パーカー・プローブ
地球上(というか地球圏?)での最高速度を記録したのはマンホールのフタですが、宇宙空間で活躍する探査機の中にはさらに上がいます。
2018年までは、1976年に太陽探査機ヘリオス2が、太陽に最接近した際に記録した247,000km/hという速度が最高速度でした。
ヘリオス2は太陽に接近して様々な観測を行う探査機ですが、太陽の引力が大きいため、低速で接近すると太陽に墜落してしまうんですね。
そこで何度もスイングバイを繰り返し、加速してから太陽の近傍をフライバイしました。そのときの記録がこの数字なんですね。
247,000km/h。
マンホールのフタよりもちょっと速いです(笑)
それからしばらくこの記録は破られていなかったのですが、2018年、同じく太陽探査機であるソーラー・パーカー・プローブが、この記録をわずかに更新。その後も、ソーラー・パーカー・プローブは加速しながら太陽へのフライバイを続け、2023年には、
692,000km/h
というとんでもない記録を樹立しています。
この速度を維持したまま太陽から離れたら、あっという間に(?)太陽系を離脱しますが、フライバイのあとは太陽の引力で大きく減速してしまうので、そういう面白いこと(?)にはなりません(笑)
ちなみに、、
光の速度は秒速30万km。時速に換算すると約10億km/hですから、ソーラー・パーカー・プローブがいくら記録を伸ばしても、光速と比べたら何ケタも足りません。
太陽系にもっとも近い恒星・アルファ・ケンタウリは4.3光年なので、そこに行くには、人類最速の人工物でも気の遠くなるような年月が必要ですね。
ではでは。