なぜ国名に漢字表記が存在しているのか?
今回は漢字雑学のお話。
普段使うことがあまりないのですが、日本語でカタカナ表記されている外国の国名のほとんどには、漢字表記も存在しています。例えば、オランダ→「和蘭」、フィリピン→「比律賓」などですね。
大体が音による当て字ななんですけど、たまに国名の意味やその国の特徴などを漢字にしたものもあります。
カタカナの国名があるのに、なぜ漢字表記があるのか?
私は以前からそう疑問に思っていましたし、同じように考えている方も多いと思うのですが、調べてみると割と簡単な理由でした。
日本の外交の歴史を遡っていくと、飛鳥時代の遣隋使あたりから始まりますが、当時の外国の情報は唯一の外交の相手であった中国(当時の呼び方は「随」や「唐」)から入ってきていました。中国にはひらがなやカタカナは無く、漢字しか存在しておりませんので、当然、国の名前も漢字で表記していました。
外国の情報が中国から漢字のまま日本に伝わってきたので、日本でも長い間、外国の国名は漢字で表記されていたのです。実にシンプルな理由です。この歴史を考えると、当たり前のことですよね。外国の国名がカタカナ表記に変わったのはなんとその1000年以上も後、明治時代の話になるようです。意外と歴史が浅いんですね。
今回は、その今は使われなくなった国名の漢字表記を紹介したいと思います。もともと中国から入って来たものなので、正直「なんでこんな漢字が?!」というものも多く、結構面白いです。
レベル1 割と見慣れている漢字国名
「亜米利加」「印度」「仏蘭西」「独逸」「伊太利」「蒙古」
まずは初級編ということで、割と目に触れる機会がある漢字国名を紹介します。
上の漢字国名、いくつ分かりますか?
「亜米利加」
これは誰でも分かりますよね。アメリカ合衆国のことです。
「印度」
これも簡単。読んでそのままです。インド。
「仏蘭西」
これもたまに見ますよね? 仏=ふ、蘭=らん、西=す。フランスです。
国名漢字ではこの「蘭」をよく使いますので、覚えておきましょう。そのまま「らん」で大丈夫です。ただ、「西」は「す」だったり「し」だったりします。
「独逸」
すこし難しいですか。かえって「独」だけの方が分かるかもしれませんね。そうです。ドイツです。
「伊太利」
これもなんとなく分かりますよね。表記によっては「伊太利亜」と書くこともあるようです。はい、イタリアですね。
「蒙古」
国名以外の言葉として使われていることも多い漢字ですね。「もうこ」と読まれることがほとんどですが、語源はすべてその国の名前から来ています。モンゴルのことです。
レベル2 当て字で何とか読める漢字国名
「印度尼西亜」「泰」「馬来西亜」「露西亜」「加奈陀」「智利」「玖馬」「越智阿皮亜」
はい、レベル2です。難読漢字には違いないのですが、わかりやすい当て字なので、読めば「ああ」と気がつくかもしれない国名漢字です。答えを見る前に少し考えてみましょう。
「印度尼西亜」
インドあまにしあ、ではないです。「尼」は「ね」と読みます。インドネシアですね。
「泰」
これも発音してみるとすぐにわかります。「やす」ではありませんよ? タイです。
「馬来西亜」
苦しい! 苦しいですが、なんとか読んでみましょう。ばらいしあ? いえ、マレーシアです。
「露西亜」
やっぱり「西」がたくさん出てきますね。中国から見て西の方角ではありませんが、ロシアです。
「加奈陀」
素直に読めば分かるのですが、文字から受ける印象と国の印象が違いすぎます。カナダ。
「智利」
こういう地名が日本のどこかにありそうですが、地球の裏側です。チリ。
「玖馬」
これも文字から受ける印象が違いすぎます。でも、素直に発音してみましょう。きゅう・ば。キューバです。
「越智阿皮亜」
これは少し難易度が高いです。越智は「おち」ではなく「えち」。あとは皮を「ぴ」と読めるかにかかっています。そうです、エチオピアです。
レベル3 読めなくはないけど長過ぎだろ!な漢字国名
「馬達加斯加爾」「悪悪斯天歴逸吉」「濠斯太良利亜」「巴不亜新幾尼亜」「美哥魯尼西亜」
まあ、長い国名を当て字で漢字にしたら長くなるのは分かるんですけどね。それにしても、です。
ちなみに、国名の漢字表記って、文献によって少しずつ違うので、国によっては10通り以上あるんですよね。このレベルでは、ほとんど使われてない表記も含んでいます。レアでも面白ければOKな感じで選んでいるという(笑)
「馬達加斯加爾」
「馬」をなんて読み始めるかで読めるかどうかが決まります。これは「ま」です。ちなみに、「爾」も漢字国名でよく出てきますが「る」と読むケースが多いです。これはマダガスカルと読みます。
「悪悪斯天歴逸吉」
悪ふざけにもほどがあります(^_^;)
こんな文字を2つも並べたら、国民の方々が気を悪くしそう。「悪悪」は「おお」と読みます。悪悪斯天歴逸吉=オーストリア。カタカナより漢字の方が文字数が多いのはなぜ?!
「濠斯太良利亜」
上のに似てますが、こちらはわかりやすいです。オーストラリア。
「巴不亜新幾尼亜」
答えを聞くと、あーなるほどって思うかも? パプアニューギニア。
「美哥魯尼西亜」
あー、哥と魯が読めるかな? これはミクロネシア連邦のことです。
レベル4 国名の意味が意訳された漢字国名
「象牙海岸」「獅子山」「南斯拉夫」「新西蘭」「氷州」「法迪坎」
レベル4は、もうまったく読めないのですが、その国の特徴が意訳されて漢字になっているケースです。国名でそういうのアリ? と思うのですが、あるんだから仕方ないですね。
「象牙海岸」
「ぞうげかいがん」ですよね、どうやって読んでも。でも、これ、コートジボアールのことらしいです。本当にそう「読む」のかはわかりません。コートジボアールはフランス語なのですが、Côte=海岸、d’Ivoire=象牙の、ということで、そのまま意訳されたんですね。
「獅子山」
どう読んでも「ししやま」か「ししざん」なのですが、これはアフリカにあるシエラレオネです。これも国名の意味を意訳したものなんですね。Sierra León = ライオンの山。昔、山の方からライオンの咆哮のような雷の音が聞こえたとか何とからしいです。
「南斯拉夫」
これも意訳ですが、上の2つとは少し意味が違います。昔、ユーゴスラビアという国があって、その国は南スラブ人を主体に合同して成立した国家だったんですね。南スラブ → 南斯拉夫。要するに南斯拉夫は、ユーゴスラビアのことだったんです。残念ながらこの国名は2003年に消滅しています。
「新西蘭」
これは一部だけが意訳になっています。「新」を「しん」で読むといつまでも答えが出ません。「新」は「新しい」→「ニュー」と発音します。そう、これは、ニュージーランドなんです。
「氷州」
これ、読み方は漢字と全然違うのですが、意味を考えたらきっと分かりますよ。「氷」は「アイス」です。アイスランド。
(おまけ)
「法迪坎」
根拠が見つからなかったのでおまけとして掲載しますが、これも意訳ではないかと推測します。法迪坎はバチカンと読むらしいです。「法」、「迪(導く)」、「坎(悩み?)」このそれぞれの漢字の意味がなんとなくバチカンっぽいですよね?
レベル5 言われてみればそう読めるかも? 難解当て字漢字国名
「哥倫比亜」「革尼亜」「加納」「錫蘭」「和蘭」「愛蘭」「芬蘭」「諾威」
レベル5です。いきなりだと読めないけど、答えを教えてもらえれば、「ああ、なるほど! でも少し無理なくね?」という微妙な当て字の漢字国名です。
「哥倫比亜」
最初の「哥」を「こ」と発音できるかにかかっています。そうです。コロンビア。
「革尼亜」
「革」の発音が難しいですが、イメージ的になんとなくわかりますよね? ケニアです。
「加納」
かのうさん? 人名かよ! という感じなんですけど、これはガーナと読みます。苦しいー
「錫蘭」
ここから「蘭」が続きます。素直に「らん」と読めば正解に近い形になりますが、プラスαが必要です。「錫」は「すず」なので、そのまま読むと「すずらん」。でも、正解はスリランカです(汗)
「和蘭」
これは日常でも使われることがたまにあるのでご存じ方もいらっしゃるかもしれません。和尚さんの「お」、に「らん」で、オランダ。
「愛蘭」
そのまま発音してみましょう。「あいらん」。それで結構良いところまで来ています。正解はアイルランド。
「芬蘭」
「ふんらん」?? 良いところいってるんですけど、ふたひねりぐらいしないとたどり着けません。これはフィンランドです。
「諾威」
これ、レベル6にしようか悩みましたが、無理やり読めないこともないので、レベル5にしました。中国語で「諾」は「ヌゥオ」、「威」は「ウェイ」と発音するらしいです。ヌゥオ・ウェイ=ノルウェーです(笑)
レベル6 なんでそうなった?! 超難読漢字国名
「伯剌西爾」「葡萄牙」「新嘉坡」「尼波羅」「阿爾及」「莫三鼻給」「莫三鼻給」「西班牙」「埃及」「月即別」
さあ、ラストを飾るのはレベル6。何をどう間違ったらそんな読み方になるのか?! 超難読の国名です。話のネタにどうぞ!
「伯剌西爾」
なんども出てる「西」は「じ」、「爾」は「る」なんですけど、その前がどうやっても読めません。なんとブラジル!
「葡萄牙」
ぶどうが?? ああ、音的に少し近い? 特産物がブドウ?? よくわかりません! ポルトガル!
「新嘉坡」
ニュージーランドでは「新」=「にゅー」でしたが、これは「しん」で良いです。答えはシンガポール! 要するに「坡」が「ポール」ってこと?! 「新嘉波」でも良いそうです。どっちもどっちですけど。
「尼波羅」
あまはら?? ねぱら? 良いところまでは行けますが、「羅」を「る」と発音しないといけません。ネパールです!
「阿爾及」
前半は素直に読めます。「阿」=「あ」「爾」=「る」。で最後の「及」は当然「じぇりあ」って読みます。アルジェリア。いや、無理無理無理無理!!
「莫三鼻給」
「三」は「ざん」、「鼻」=「び」です。さあ、みんなで考えよう~! そうそう、そうです! モザンビーク!! って、ええええ?!(爆)
「西班牙」
スペインです。絶対読めないので、先に正解を書いてしまいます。「西」が「す」はかろうじて読めますが・・・
「埃及」
さて、ラストスパート! ギネス級の難読漢字です。ほこりきゅう?! ホコリが多い国? 誇り高き国? わかりません。なんでこうなった? エジプトです!
「月即別」
なんとなくロマンティックなイメージがありますね。月が見える夜にお別れしたんでしょうか? そう旅路の恋は儚いものなんです。これはウズベキスタンと読みます! 昔この国を治めていたウズベク・ハンさんの漢字表記が「月即別汗」だったと。一応の由来はあるのですが、そもそも、そこからして理解不能です!
おしまい
これでおしまいです。
こんなに紹介するつもりなかったのですが書き始めたら止まらなくなった(汗)
それでも、まだまだ難読国名漢字はあります。あれ、◎◎が載ってない、と思った方もいらっしゃると思いますが、とても全部は紹介できません。
ちなみに、途中でもお話ししましたが、漢字国名は文献によっていろいろあり、多い国だと20種類以上存在しています。今回参考にしたサイトはたくさんあるのですが、最終的には、Wikipediaに以下のページの各国の欄の一番上に掲載されている漢字をメインに掲載しています。(違うのもあります)
まあ、暇つぶし、雑談のネタだと思って楽しんでいただけると幸いです。