はやぶさ2、小惑星1998KY26へ新たなる旅路。1998KY26の物理特性や軌道などについて

はやぶさ2と小惑星「リュウグウ」のイメージ図。Wikipediaより引用。
作者:Deutsches Zentrum für Luft- und Raumfahrt (DLR)

祝・はやぶさ2帰還&サンプルリターン成功

小惑星探査機はやぶさ2の無事帰還とリュウグウからのサンプルリターン成功。おめでとうございます♪
2020年12月6日のウェブ中継は私も観ており、夜中に一人で拍手しておりました。

素晴らしい成果ですよね。小惑星に行って帰ってくるだけでも大変なのに、そこから砂やガスを拾ってくるなんて。まさに歴史的偉業。分析によりこれからいろんなデータが出てくると思いますが、きっと世界が変わります。

さて、2014年12月3日に地球を出発して約6年間の長い旅をしてきた「はやぶさ2」なのですが、これで終わりではありません。2020年12月5日、地球に向けてサンプルが入ったカプセルをリリースした後、軌道を変更を行い新たなる旅に出ました。これは、これから11年渡って繰り広げられるはやぶさ2拡張ミッションのスタート地点になります。

この記事では、はやぶさ2拡張ミッションの目標天体である「小惑星1998KY26」について、書きたいと思います。

 

新たなる目標は「小惑星1998KY26」

このブログで昨年(2020年)8月に書いたこの記事では、

「はやぶさ2」カプセル、12月6日帰還決定。次の目的地は小惑星2001AV43か1998KY26
小惑星探査機はやぶさ2の地球帰還は2020年12月6日   小惑星リュウグウでの探査を終えて地球へ向かっている探査機はやぶさ2の帰還予定日が決定しましたね。 2020年12月6日 です。 この日付については7月22日に公表されていたのですが、正式にオーストラリア政府の着陸許可の連絡があったのが8月10日だったということです。 着陸と言っても、実際に地球上に着陸するのは、小惑星リュウグウで採取した試...

まだ拡張ミッションの目標天体が決まっていなかったのですが、その1ヶ月ほど後に決定しています。目標は「1998 KY26」です。

当初、以下の2つのシナリオがありました。

■2001 AV43を目指すシナリオ(EVEEAシナリオ)

 2024年8月 金星フライバイ
 2025年12月 地球フライバイ 
 2026年12月 地球フライバイ
 2029年11月 2001AV43を接近探査

■1998 KY26を目指すシナリオ(EAEEAシナリオ)

 2026年7月 2001CC21をフライバイ
 2027年12月 地球をスイングバイ
 2028年6月 地球をスイングバイ
 2031年7月 1998KY26を接近探査

 
最終的にはこの後者に決まったわけなのですが、その理由は太陽との距離のようです。

はやぶさ2はリュウグウに行って帰ってくることのみを前提に設計されており、太陽からの距離が0.85~1.41au(1au=太陽と地球の距離)で運用されることが前提となっています。それより太陽に近くても遠くても搭載機器の動作に不安が出るんですね。

前者のEVEEAシナリオは、金星軌道まで行くことになり、これが太陽と0.71auの距離になります。ここまで太陽に近くなると、はやぶさ2の搭載機器の許容温度範囲を逸脱するらしいです。

後者のEAEEAシナリオは、太陽と最も近くなる地点で0.77au。これも設計前提を逸脱しておりますが、計算上、搭載機器はなんとか大丈夫のようです。

またメインエンジンであるイオンエンジンも、0.85au以遠でしかフル稼働できないそうで、長い期間そこから逸脱するEVEEAシナリオは、かなり不安があるみたいですね。それらの理由から後者のEAEEAシナリオが採択されました。

EAEEAシナリオでは、目標天体が2つあります。小惑星「2001CC21」と「1998KY26」です。

「2001CC21」はフライバイ(接近通過)のみ、「1998 KY26」はランデブーして詳細な観測を行う予定です。リュウグウのようにタッチダウンも検討するみたいですが、高速自転している小惑星なので、かなり難しいようですね。

 

小惑星1998KY26ってどんな天体? 大きさや軌道など

前置きが長くなった(いつものこと)ですが、ここからが本題です。1998KY26ってどんな天体なのでしょうか? その物理特性や軌道を見てみましょう。

1998 KY26のCGモデル。wikipediaより引用

これが拡張ミッションの目標天体である1998KY26のCGモデルです。まるでジャガイモですね(笑)
はやぶさ2の前回の目標天体だったリュウグウの直径は700mと、小惑星の中でも小さい方だったのですが、今度の1998KY26はさらに小さいです。なんと、直径30m。2011年にNASAの探査機ドーンが周回探査を行った小惑星ベスタは直径約500kmだったので、それと比べたら米粒みたいなものですね。

それと、先ほども書きましたが、この小惑星は高速で自転しているという大きな特徴があります。なんと自転周期が約10.7分! 小さい天体だからなせるワザで、もう少し大きな天体がこんな高速自転していら、すぐに崩壊してしてしまいます。

■小惑星1998KY26の物理特性
直径:30 m
自転周期:10.7015 ± 0.0004 分
絶対等級:25.5
スペクトル分類:X
※Wikipediaより引用

 
さて、次は小惑星1998KY26の場所です。なんせはやぶさ2が11年も旅してようやくたどり着ける天体ですから、さぞ遠くにあるんだろうと思ったのですが・・・

小惑星1998KY26の軌道。JAXAの記者説明会資料より引用して加工

 
実はめちゃくちゃ近かった(笑)
地球と火星の間でしかも地球の軌道よりも内側も通過しています。
公転周期は地球より長く、火星より短い500日。

■小惑星1998KY26の軌道要素
軌道長半径:1.233 au
近日点距離:0.984 au
遠日点距離:1.482 au
公転周期:500.042 日(1.37 年)
※Wikipediaより引用

なんでこんなに近いのに到達までに11年もかかるのかと思ったのですが、高速で移動する天体にランデブーするというのは、やはり大変なことなんですね。まずは同じスピードに加速する必要がありますし、軌道も少しズレただけで明後日に飛んでいってしまいます。

リュウグウへは3年半で到達できたのですが、これは最初からリュウグウへ行くことだけを考えて打ち上げたため、最短ルートで到達できたってことなのでしょう。

拡張ミッションへの旅立ち直前は、リュウグウの試料が入ったカプセルを地球に向けてリリースすることが最優先でした。1998KY26への旅は、そこから新たに仕切り直すことになったため、かなり遠回りのルートになってしまったのかと思います。

 
さて、1998KY26の軌道についてですが、上の図を見てもわかるとおり、一部地球と交差しています。地球との最小交差距離は、なんと約0.0025au(約37.4万km)しかありません。これは月よりも近い距離になります。将来、なんらかの外的要因で少し軌道が変われば、地球に衝突するかもしれませんね。それが今回選ばれた1つの理由らしいです。

今回、はやぶさ2がこの小惑星を探査する大きな目的は次の2つ。

・高速自転小惑星の形成・進化の解明、探査技術の獲得
・プラネタリーディフェンスに資する科学および知見の獲得

1つは高速自転小惑星がどうやって形成したかということを調べることと、その過程でそのノウハウを獲得すること。
もうひとつは、地球の脅威となり得る小惑星から地球を守る方法を研究する材料を得ること。

なんとも壮大な計画です。
宇宙戦艦ヤマトみたいです。

初代はやぶさが帰還したときに、宇宙戦艦ヤマトのパロディ動画が人気になりましたが、あたらずとも遠からじですね。

11年は長いですが、小惑星の探査以外にも、いろいろなミッションがあるようなので、これからも注目していきたいと思います。

ガンバレ! はやぶさ2!
 

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