日本三大車窓(1) – JR九州肥薩線 矢岳越え(矢岳駅)と大畑駅スイッチバック

日本三大車窓とは?

前々からこの日本三大車窓についてはシリーズ化しようと思っていたのですが、今週のテレビ番組「所さんのそこんトコロSP」で取り上げられるようなので、これを機会に記事にしたいと思います。

まず日本三大車窓とはなんぞや?ということなのですが、これは「列車の窓から見える風景が素晴らしい」ことで有名な日本国内の3つの観光スポットのことを言います。一般に以下の3つと言われています。
 
1.熊本県(JR九州)肥薩線 矢岳越え(矢岳駅付近)
 
2.長野県(JR東日本)篠ノ井線 姨捨駅
 
3.根室本線(JR北海道) 狩勝峠越え(1966年に廃止)

なんと日本三大車窓のひとつは道内にありました。が、1966年に廃止になった根室本線の旧線だという。なぜ50年以上も前に廃止になった路線が未だにノミネートされているのでしょう?? 代わりが見つからないぐらいこの3カ所のレベルが突き抜けているということなのかな?

ということで、何回かに渡って日本三大車窓の連載を行います。で、初回である今回は熊本県の肥薩線矢岳越えについてです。ついでにその付近の名所である大畑駅スイッチバックについても少し触れたいと思います。

 

肥薩線 矢岳越え

JR九州の肥薩線(ひさつ)は熊本県八代市の八代駅から鹿児島県霧島市の隼人駅に至る124Kmの路線です。また、一部区間は宮崎県の都城駅に向かう吉都線と合わせて「えびの高原線」という愛称で呼ばれています。

肥薩線を南に向かうと、人吉市の市街地を抜けてから山間部に入り、スイッチバックで有名な大畑駅(おこばえき)のあたりからは矢岳山を越える険しい峠越えになります。そして矢岳第一トンネルを抜けるといきなり視界が広がり、霧島連山とえびの高原を望む素晴らしい風景を見ることができます。これが日本三大車窓のひとつ、通称「矢岳越え」になります。

日本三大車窓のひとつ肥薩線矢岳越えの風景。霧島連山とえびの高原が拡がっている

視界の広さがすごいですよね。天気の良い日は鹿児島の桜島も見えるそうです。

場所はこのあたり。GoogleMapにちゃんと観光スポットとして記されていました。

後ほど説明しますが、観光列車 いさぶろう・しんぺい号では、もっとも眺めの良い場所で停車し、客室乗務員が風景の解説をしてくれます。眺めの良いところでスピードを落としてくれる路線はたまにありますが、完全に停車するのは珍しいですね。

あと、GoogleMapを見ていて気がついたのですが、この日本三大車窓の場所にストリートビューのマークがあるんですよね。おそらくドローンで撮影したモノと思われます。こちらです。

これはすごいですね。360度視界を一周すると、線路が下の方に見えるので、日本三大車窓よりも視点が高いことになります。ドローン新時代の風景ですね。

 

観光列車 いさぶろう・しんぺい

さて、そんな素晴らしい車窓を見るためにはどの列車に乗れば良いのか? いやいや、JRの列車に乗れば良いのはわかっているのですが、この路線、意外と列車本数が少ないのです。日本最大車窓である矢岳越えの部分は、なんと1日3往復しか走っておりません。

しかも、3往復のうち2往復は観光列車で、普通の列車は1日1往復しかないという。あまり地元の人の足としては利用されていない路線ということなんですね。とりあえず、三大車窓を楽しみたければ2往復の観光列車に乗るのが良さそうです。ビューポイント各所では徐行や停車してくれますし、女性客室乗務員による解説もあります。その観光列車は「いさぶろう・しんぺい号」と言います。

ずいぶん長い名前だなと思ったのですが、実は違って「いさぶろう号」と「しんぺい号」らしいです。そうなると車両が2セット用意されていると思いますよね? それもハズレで(笑)、車両は同じですが、

・南向きの下り列車(人吉駅方面から吉松駅)を「いさぶろう号」
・北向きの上り列車(吉松駅から人吉駅方面)を「しんぺい号」

と呼ぶらしいです。上りと下りで列車名が変わるって珍しいですね。というか、初めて聞きました。ちなみに、この「いさぶろう」「しんぺい」という名前は、この路線が開業した当時の国鉄の偉い人の名前だそうです。

いさぶろう・しんぺい号の外観(wikipediaより)

いさぶろう1号は熊本駅を出発し、人吉駅までは特急扱い。人吉駅からは普通列車として矢岳越えを行って吉松駅が終点。その折り返しがしんぺい2号となり人吉駅まで運行。人吉駅で折り返していさぶろう3号となり再び吉松駅へ。その折り返しが最終のしんぺい4号となり、人吉駅経由で熊本まで運行します。ひとつの車両が変形2往復し、計4回の矢岳越えを行うことになります。かなり急勾配の山線らしいので、気動車はお疲れ様ですね~。

いさぶろう・しんぺい号の内装(wikipediaより引用)

「いさぶろう・しんぺい号」の内装は上の写真のように、レトロっぽくありながら、清潔でオシャレな感じになっています。ナイスセンスですね。お弁当などの販売もありますし、記念スタンプなども車内で押せるようになっています。まさに観光列車です。

車窓からの眺めも最高ですし、後述する大畑駅でのスイッチバックも体験できますので、鉄道ファンにはかなり「美味しい」列車ではないでしょうか?

ここでひとつ参考動画を紹介します。
この動画を見ると観光列車 いさぶろう・しんぺいについてや、大畑駅スイッチバックの様子がよくわかります。少し長いですが、居ながらにして乗った気分になれますので、興味のある方は是非。

 

矢岳駅とホテル星岳・月岳

さて、日本三大車窓の近くには特徴的な駅がいくつかあるのであわせて紹介したいと思います。まずは矢岳駅。
 
そのビューポイントに最も近い駅が矢岳駅です。この路線の中では最も高い位置にある駅で、標高536.9メートルだそうです。
 
険しい山の中にあり、それほど大きな集落もなかったので、駅の設置当初はその存在価値を疑われたのですが、駅が出来たことで運送業者や木材業者が集まり、次第に賑やかになっていったそうです。昭和30年代には約160戸780人が付近に住んでいたとか。ただ、現在はもう過疎化してしまい人口が激減しています。

敷地内にはSL展示館というのがあって、蒸気機関車D51-170が展示されています。このSLを見るためだけにここを訪れる方もいらっしゃるようですね。

そして、特筆すべきはホテルの存在です。この過疎化した山奥の駅の近くに、昨年(2019年)ホテルがオープンしました。その名は「ホテル星岳・月岳」

明治時代、矢岳駅の近くに国鉄職員の官舎が20軒ほどあったらしく、そのうち駅長官舎については今でも建物が残されており、それをリノベーションしてホテルとしてオープンしたようです。

公式サイトで見ましたが、これが良い感じなんですよ。まるでタイムスリップしたような素敵な空間でした。北海道からでは遠くてなかなか行けませんが、一度泊まってみたいホテルですねー。

ホテル星岳のリビング。他に寝室やキッチンなどがある(公式サイトより引用)

 

鉄道マニア垂涎!大畑駅スイッチバックとループ線

もう一つ駅を紹介しますね。矢岳駅のひとつ北側(人吉駅側)の駅・大畑駅です。「おおはたえき」ではありません。大畑と書いて「おこば」と読みます。難読地名が多い北海道に住む私が言うのもなんですが、、、読めません!!(>_<)

この大畑駅、山の中にある単なる無人駅なのですが、他には無い属性をもっています。それは、

日本で唯一「ループ線の途中にあるスイッチバック駅」

なのです。

鉄道におけるスイッチバックというのは、狭い敷地で急勾配を登るために、前後の向きを交互に変えてジグザクに登っていく方式のことを言い、その途中にある駅をスイッチバック駅といいます。

広い敷地があれば、蛇行やループを使って高低差を稼ぐため、スイッチバックは必要ないのですが、この大畑駅付近はループ線になっている上で、さらにスイッチバックもあるのです。勾配を克服する仕組みが2重になってるんですね。GoogleMapで見るとこのようになっています。

衛星写真だと、

ループ線と大畑駅(国土画像情報(カラー空中写真)を元に作成 ※Wikipediaより引用)

見事なループですよね。その綺麗なループからはみ出す枝毛のような引き込み線が2本出ており、その片方にに大畑駅のホームがあります。通過可能型のスイッチバック駅ではないため、この駅に用事が無い列車でも、このふたつの引き込み線に入って折り返さないと先に進めません。なぜ、そのような方式になってしまったのでしょうか?

この路線が建設されたのは1909年(明治42年)ですので、もちろん蒸気機関車の時代でした。急勾配が連続する場合、蒸気機関車の水の消耗が激しいため、途中に給水を行うための停車場が必要になります。しかしながら、この付近は平坦な場所がほとんどなく、そのままでは停車場を作ることが出来なかったんですね。蒸気機関車は少しでも勾配があると再起動できないのだそうです。

そこで平坦な停車場を作るために、このようなスイッチバック方式になったいうことです。要するに、大畑駅は機関車が休憩するための駅だったということですね。

現代の列車は、結構な勾配も登れるようになりましたし、給水の必要もありません。なので、全国では改修によりスイッチバック方式を解消しているところが多いのですが、ここに関しては、今でもこの方式じゃないと急勾配に対応できないんでしょうね。

ループ線、そしてスイッチバック。これは鉄道ファンや鉄道カメラマンが泣いて喜ぶコラボですよね。にわかファンの私でさえ、胸が躍ります。

このスイッチバックの様子を高い視点から撮影した素晴らしい動画ありましたので、2点ほど紹介します。いさぶろう号のスイッチバックと、臨時列車ななつ星のスイッチバック(レアもの)です。これを見たら鉄道で旅がしたくなりますね~。これはロマンです!!

 
さて、そんな感じで、、、
鉄道の話題だけに少し脱線しましたが(ぉぃ)、日本三大車窓の第一回を終わります。なんとこの記事を書くのに3日もかかりました(汗)なんと4000文字超えた、、、

ちょっと間が空くかもしれませんが、日本三大車窓の第2回は長野県の篠ノ井線姨捨駅を記事にしたいと思います。こちらもスイッチバック駅なので、話が脱線するかも(笑)

 
◆関連記事
沖縄県で最初に開業した鉄道・南大東島のシュガートレイン。その歴史と復活計画
 

タイトルとURLをコピーしました