帯広市の国道38号線の近くに北門神社という神社があり、その境内に小さな沼があるのをご存じでしょうか?
その名は「チョマトー」。徒歩1分ぐらいで一周できてしまう、何の変哲もない小さな沼なのですが、その沼には、アイヌの古戦場伝説が存在します。今回は、そんなアイヌの聖地「チョマトー」のお話。
西暦1800年頃、北見アイヌは宝石や美しい女性を手に入れるため、現在でいう帯広のあたりにあった十勝アイヌのコタン(集落)を攻撃しました。最初は北見アイヌが優勢だったのですが、最後は形勢が逆転し、北見アイヌはとある沼のほとりに逃げ込みました。そこで、水鳥を捕まえて食べていると、いつの間に十勝アイヌの軍勢に取り囲まれており、あきらめた北見アイヌの戦士たちは沼に飛び込んで自殺を図りました。
これが、十勝アイヌに伝わる伝説です。以前の記事でも書きましたが、アイヌは文字を持っていないため、口頭による伝承となっており、話す人によって少しずつ内容が違うらしいのですが、その沼が舞台となっているのは同じようです。アイヌ語で「害を受ける」と言う意味の「チ・ホマ」が語源となり、その沼は「チョマトー」と呼ばれるようになったとのこと。
その沼は、十勝川の南側に形成された三日月湖らしく、昔はそれなりに大きかったらしいのですが、現在は公園の池のような小さい姿になってしまいました。
多くの戦士の血が流れたことから、この沼を「血妖魔沼(ちよまとう)」と表記することもあるようで、沼の横には「血妖魔沼戦没者慰霊碑」が建っています。古くからアイヌ民族による慰霊祭も行われており、一時期中断していたようですが、現在まで続いております。
私は実際にチョマトーを見たことは無いのですが、帯広の街の中の小さな沼にそんな伝説があるなんて驚きです。アイヌの伝承は北海道各地に残っていますが、その舞台が現存しているものは限られていますので、チョマトーは歴史的な価値がある貴重な存在ですね。今度帯広に行く機会があったら、是非寄ってみたいと思います。
この地区は、当時から大規模なコタンがあったようですが、現在は本当に帯広市の住宅街の真ん中に存在しており、敷地内に3つの神社(北門神社、チョマトウ神社、不動神社)があるあたりは神聖な感じがするのですが、東隣がパチンコ屋の駐車場だったり、南隣が大規模なドラッグストアだったりと、落ち着かない場所に立地しています。
そして、地図を見ると、沼の東側が辺が不自然に直線になっているのが分かりますが、
これは、2004年の道路の直線化工事で、沼が埋め立てられたためです。それまではチョマトーは現在の約3倍の面積があり、この南北に延びる道路は、チョマトーを避けるように湾曲していたらしいです。
虫の大量発生など衛生面での問題もあったようですが、そんな聖地のような歴史的価値がある沼を「道路を直線にしたい」という理由で埋め立てるのはいかがなものでしょうか。時すでに遅しですが、埋め立てる前のチョマトーに訪れてみたかったですね。
それでは今日はこの辺で。