月の水|クレーター内部の氷から月面開発の可能性を探る

2019年10月22日

月面から地球を望む|月探査機「かぐや」が撮影 JAXAより
月面から地球を望む|月探査機「かぐや」が撮影 JAXAデジタルアーカイブスより

 

野尻包介さんの小説「ロケットガール」シリーズの3巻「私と月につきあって」に、月で大量の氷が発見されるというシーンがあります。そしてそれを見た宇宙飛行士(なんと十代の少女!)が、「ここはいつか都市になるわ」と言います。

氷が都市になるまでには長い道のりがあるでしょうが、私はなるほど~と唸りました。もし無尽蔵に水が得られるとすれば、補給無しに人が生活できる環境を作れるのです。ということで、今回は月の水の話。
 



月の水はあるのか?

まずは、月に水はあるの?というところから始めたいと思います。
「静かの海」「晴れの海」「南の海」など、月面地理学の上ではたくさんの海があるのですが、これらの海には水はありません。玄武岩て覆われた平野なんですね。地球から見ると黒く見えることから、昔は水があると考えられており、16世紀の天文学者によって「~の海」と名付けられました。日本で言う「ウサギに見える部分」がそれですね。

月の海|黒く見える部分が「海」と呼ばれている。Wikipediaより引用。
月の海|黒く見える部分が「海」と呼ばれている。Wikipediaより引用。

では、水は無いのか?
実際、月の表面では、「水」という状態で存在することはできないようで、蒸発した水蒸気についても、太陽光で分解され、宇宙に拡散するらしいですね。でも「氷」という状態であれば、話は変わります。月の北極、南極付近のクレーターの内部には、全く太陽光が当たらないところがあるので、そういったところに氷が存在する可能性は、1960年代から提唱されていました。
 
極付近の有人探査やサンプルリターンは行われておりませんので、確実な証拠はまだ出てきておりませんが、2008年から2010年にかけて行われた、インドの探査既チャンドラヤーン1号やNASAのルナー・リコネサンス・オービターによる様々な観測により、「比較的純度の高い大量の氷がある」と推測されるデータが得られてます。NASAによれば、その量は最低でも6億トン!
 

月に水があると何ができる?

さて、ということで、月に氷がある可能性はかなり高くなっておりますが、もし大量にあったとしたらいったい何ができるのか? 「人間が月に長期滞在する」という視点で考えてみましょう。

■ 飲む!

単純ですが、これは大事です。月に物資を運ぶのはものすごくコストがかかります(荷物が数Kg増えると億の単位で費用が増えるらしい)ので、例え浄化が必要だとしても、飲料水が現地調達できるというのは大きいです。

■ 電気分解して酸素を得る!

最も大きいのはこれでしょう。太陽電池パネルで発電をすれば、その電力で水を電気分解することができます。すると、人間が呼吸するために必要な酸素をほぼ無尽蔵に得ることができます。有人宇宙探査の最大のネックは酸素の残量ですので、その悩みが解消されるのはとても大きいです。

■ 電気分解して水素を得る!

水を電気分解すると、酸素と同時に水素も発生します。これも大きい。水素は様々な機械の動力になります。月面を移動するための乗り物を動かしたり、資源発掘のための掘削機械を動かすこともできるでしょう。さらに水素は、地球に帰還するためのロケットの燃料にもなります。



■ 植物を育てる!

「長期滞在」となれば、当然食べるものも現地調達する必要が出てきます。でも、水があれば大丈夫。植物プラントも作ることができます。
 

夢は月面都市

こんな理由から、冒頭で紹介した小説では、「いつか都市になる」という表現が出てきています。まあ、水があったとしても、当面生活するための居住モジュールや大量の太陽電池パネルを運ばなければなりませんので、長期滞在できるようにするためには、相当な物資をコツコツ運ばなければなりません。でも都市ができる可能性はある。このことは素晴らしいことだと思います。以前も書きましたが、

「人の夢は終わらない」

のです。

ちなみに、この月の水の話を調べていて、面白いものを見つけました。「Google Lunar X Prize」って言うんですけど、これはなんと「月面無人探査」を競うコンテストなんだそうです。Googleがスポンサーになっていて、賞金増額は約30億円とか。

チームで、月面無人探査を計画・実行し、いくつか設定されているミッションをクリアしたものに賞金が贈られるそうです。期限は2016年12月31日。なんと今年なんです!

現在参加している22チームの中に、日本のチームもあるそうです。これは楽しみですね~ この件については、別の機会にゆっくりとお話ししたいと思います。