DART計画成功!衝突の瞬間の映像や衝突後の小惑星の軌道について

先日、NASAが勧めているDART計画のお話を書きましたが、そのミッションが終了し、無事成功したことが確認されました。

いやあ、素晴らしい。これで条件付きではありますが、将来地球が小惑星と衝突しそうになったとき、回避する方法がひとつ確立したことになります。歴史的な快挙ですね!

今回は、そのDART計画の概要のおさらいと、衝突の瞬間の映像、その後の小惑星の動きなどを紹介したいと思います。

 



DART計画の概要

地球に大きな小惑星が衝突しそうになったらどうするか。残念ながら、これまでの地球の技術では指を加えて見ているしかありません。宇宙空間を移動している天体をどうにかする技術は存在しません。宇宙戦艦ヤマトの波動砲なら粉々に吹き飛ばすことができるでしょうが、まだイスカンダルから波動エンジンの設計図が届いてない現代ではどうにもなりません(注意:待っても届きません)。

そこで発足したのがNASAのDART計画です。理論はとても簡単です。飛んでくる小惑星にある程度の重さがある物体を高速で衝突させたら、小惑星の軌道が変わるだろう、というものです。中学生で習う物理で計算できてしまうぐらい単純な仕組みですね。単純だけに、これなら失敗は少ないだろう、ということです。

探査機DARTのイメージ図。Credit: NASA/Johns Hopkins APL

 
ぶつける物体は探査機DART(上のイメージ図)。大きさは1.2m × 1.2m × 1.3m(ソーラーパネルは12.5m)、重さは600Kg。
ターゲットの小惑星はディモルフォスという小惑星で、主星ディディモスの周りを回っている衛星です。長直径は208m、重さは推定5,000,000,000kg
衝突する2つの重量比は、えっと、、、、約8百万倍!

どんなに重量比が大きくても、シンプルな物理法則が通用する宇宙空間では、衝突すれば作用反作用の法則が働き、必ず影響が出ます。それを利用する計画ですね。(相手がスライムみたいな物質で探査機が突き抜けてしまったら話は別ですが)

探査機DARTは地球を出発して10ヶ月の旅を終え、2022年9月27日に目標に到達しました。

 

小惑星と探査機DARTの衝突映像

この計画の成否は2段階で評価されます。
まず一つ目は、探査機DARTがちゃんと小惑星はディモルフォスと正面衝突するかどうか、です。相手の天体が小さいですからね。軌道を間違えて、すれ違ってしまったら元も子もありません。

今回はできるだけ小惑星の中心部にぶつかるのが理想的だったみたいです。正面衝突で小惑星を減速させることで軌道を変えようとしていました。端の方に当たってしまった場合でも、ある程度軌道は変わると思いますが、探査機の勢いが小惑星を回転させるエネルギーになってしまうかもしれない(ビリヤードのマッセみたいな感じになる)ので、狙った成果が得られない可能性がありました。

さて、DARTはちゃんとディモルフォスに衝突したのか、映像で見てみましょう。

すごいすごい!
最初は点だった小惑星がだんだん大きくなってきて、ゴツゴツした岩までもハッキリ見えていますね!

無事、探査機は小惑星のほぼ中心に衝突したようです。最後の写真だけは送信途中で機械が破壊されてしまったんですね、上の方しか写ってません。これはリアルです。

次は、衝突直前に探査機DARTから分離したもうひとつの探査機・LICIACubeからの映像です。DARTは衝突の瞬間に壊れてしまうため、衝突後の観測は自分自身で行えません。そのため、もう一機の小さな探査機を分離してそのあとの観測をさせたんですね。そのLICIACubeからの写真がこちら。

大きく見えるジャガイモみたいのが、主星のディディモスで、その横で爆発したみたいに拡がっているのが、DARTがディモルフォスに衝突した際に発生した噴出物です。すごいですね。あんな小さな探査機がぶつかっただけなのに、こんな激しく飛び散るなんて。小惑星の重量が減ったのでは?

もうひとつ映像があります。これは地球から天体望遠鏡で撮影した衝突の瞬間です。これがまたすごいんです。

映像の中心にある明るい星が小惑星ディモルフォスです。衝突した瞬間、ブワッと光って、何かが飛び散ったのが解りますよね。今回の計画は敢えて小惑星が地球に最接近した瞬間に衝突するようにタイミングを計ったのですが、それにしてもこんなにキレイに地上から観測できるとは驚きです。



 

小惑星ディモルフォスの軌道が変わった

さて、成否を評価する二つ目のポイントは、小惑星ディモルフォスの軌道が変わったかどうか、です。

まあ、正面衝突は成功したわけですから、理論上、軌道に変化が起こらないわけがないのですが、ディモルフォスの質量が想像以上に重かった、とか、主星とディモルフォスの間に未知の力が作用していた、なんてことがあったら、どうなるかわかりませんので、しっかりと軌道の変化を確認する必要があります。

これについては、衝突後すぐに分析することは難しく、2週間ほど観測してようやく本日公表となりました。

軌道が変わったかどうかの判断は次のように行います。
小惑星ディモルフォスは主星ディディモスの周りを回っている衛星なのですが、その公転周期は11時間55分。今回の計画で衛星であるディモルフォスは、正面からDARTに衝突され、その移動速度が減速します。減速すると、遠心力を失い、主星の引力に引かれるため、主星に近い軌道に遷移します。軌道半径が小さくなるので公転周期も短くなる、ということで、衝突後にディモルフォスの公転周期を計測することで、軌道が変わったかどうかが解ると言うことになります。

計算上、10分程度公転周期が短くなると思われるが、NASAは、1分13秒以上の短縮が認められればミッションは成功としていました。それだけ軌道を変えられれば、やった価値がある、ということなんでしょうね。

そして、2週間の観測で判明した衝突後の公転周期は、

11時間23分

なんと、予想を遥かに上回り、32分も短縮したのです!

なぜ想定よりも大きく軌道が変わったかについて、NASAは、「衝突で生じた破片がディモルフォスの表面から噴出し、その勢いが軌道を変える後押しになった」とみているようです。

なるほど、これは大きな成果ですね。今後、噴出物の勢いを計算に入れることで、もっと大きな成果が出せるかもしれませんし、逆にしっかり計算しないと、それがマイナスに働く可能性もあるってことですよね。小惑星の組成がわからないと、噴出物の計算は難しいかもしれませんが、「そういうこともある」ことを知っているのと知らないのとでは、大きな差が出ます。

 
ということで、NASAのDART計画は大きな成果を上げて終了しました。今後、この成果をどういうふうに活かしていくか注目ですね。

あ、そうそう。
今回、実験の成果も素晴らしいと思うのですが、もうひとつすごいなと思ったのは、この写真です。

DARTが衝突30秒前に撮影したディモルフォスの写真
Credits: NASA/Johns Hopkins APL

探査機DARTが秒速6kmという超高速で移動しながら撮影した写真がこんなクリアに写っているということです。フレーミングもバッチリです。ものすごい臨場感ある写真ですよね。NASAの技術は素晴らしいです!