富士通・親指シフトキーボードが販売終了。その40年の歴史を振り返る

富士通が開発・販売していた親指シフトキーボードがひっそりと販売終了したようです。

懐かしいです、親指シフト。
販売終了というのは寂しい話なのですが、正直言うと、「まだ売ってたんだ?」と思ってしまいました。

私が「懐かしい」と思うのは、我が家にも親指シフトがあったからなんです。私が高校生のとき、父親が持っていた富士通のワープロ「OASYS」が親指シフトのモデルだったのです。

私も何度か利用しましたが、当時すでに普通のパソコンを利用しており、高校生ながらにして「日本語入力には理想的だけど、一般的なキーボードが流用できないから、普及しないだろうな」と思った記憶があります。今から35年ぐらい前の話です。


スポンサーリンク


今回は親指シフトキーボードの歴史を振り返ってみます。

 

親指シフトキーボードとは?

親指シフトとは、1979年に富士通が開発した日本語入力のためのキー配列規格のひとつです。そして、その入力ができる独特な配列を持ったキーボードが親指シフトキーボードです。

親指シフトモデルのキーボードの例。※wikipediaより引用

このように、下部中央に「親指左」「親指右」という大きなキーがあるのが最大の特徴です。

一般的なキーボードにおいて、日本語の50音はキーボード全体に広がっており、ホームポジションから遠く離れたキーも多く存在します。そのため、日本語入力する際はローマ字入力する人が多いのですが、ローマ字入力の場合、1文字打つのにキーを2回叩かなければならないため、入力速度が落ちてしまいます。

そこで開発されたのが親指シフト。親指シフトではホームポジションの近くに50音すべてが配置されており、最小限の動作で日本語を入力することができます。

「それじゃキーが足りないだろ」って思うかもしれませんが、そこで活用するのが下部中央にある親指シフトキーです。ホームポジション付近のキーには2文字ずつひらがなが割り当てられており、

キーのアップ

・文字キーを単独で打つと下の文字
・文字キーと文字キーを打つ手の親指シフトキーを同時に打つと上の文字
・文字キーと文字キーを打つ手とは反対側の親指シフトキーを同時に打つと下の文字の濁音(中央に文字があるキーでは中央の文字の半濁音になる)

※NICOLA規格の場合

という方法で入力します。濁音、半濁音含めてすべての五十音が、ワンモーションで入力できるのが特徴です。

これを使いこなすにはかなりの訓練が必要になりますが、慣れてしまうとものすごいスピードで日本語入力できるようになります。「指がしゃべるキーボード」と言われていたぐらいです。

 

親指シフトキーボードの歴史

さて、ここで親指シフトキーボードの歴史を振り返ってみましょう。

1970年代後半
 できるだけ効率的に日本語入力する方法を試行錯誤していた富士通の神田泰典氏の開発チームは、苦労の末、ワンアクションで仮名入力ができる親指シフトキーボードを考案。

1980年
 親指シフトを搭載した富士通のワープロ「OASYS100」が発売。しかしまだ高価(270万円)であったため、企業向けだった。神田泰典氏は一般家庭に普及すれば親指シフトモデルは売れると確信していた。

1984年
 ポータブル型のワープロ「OASYS lite」を発売し価格も家庭向きになってきた。発売当初は親指シフトモデルのみのだった。

1985年以降
 価格が10万円を切り、徐々に一般家庭にワープロが普及してきたが、親指シフトモデルは、それを採用していたのが富士通だけだったため、「独自規格」という印象が忌避感を生みそれほど普及しなかった。


スポンサーリンク


1986年以降
 家庭用OASYSでもJISキーボード仕様が用意されるようになった。

1989年
 富士通は親指シフト規格の権利を「日本語入力コンソーシアム」に譲渡。

1990年以降
 パソコンの価格低下によりワープロが売れなくなったが、コンソーシアムの構成員であるアスキーやリュウドが、パソコン用の親指シフトキーワードを発売。

1995年
 OASYSシリーズの開発が終了した。

2001年頃
 日本語入力コンソーシアムが従来の親指シフトキーボードを改良したNICOLA規格のキーボードを開発。次世代のパソコンのスタンダードにしようと活動を始めた。一定のユーザーは獲得できたようだが、すでにロ-マ字入力が大多数を占めていたため、活動は難航した模様。

2020年5月
 富士通が親指シフトに関係するハードウェア・ソフトウェアの販売を2021年5月に終了すると発表。(実際は2021年1月に前倒しで終了した)

(参考サイト:Wikipedia

 
うーむ。なんとも数奇な運命ですね。

こうやって整理して冷静に考えてみると、かなり合理的で理想的なキーボードなのだと思います。もう少し一般的になっていれば私も利用したかもしれません。入力速度のアップは魅力的ですよね。

でも、やっぱりハードルがあります。もし自宅のパソコンを親指シフトに変えたとして、職場ではどうしましょう? おそらく職場のパソコンを親指シフトに変更するのは無理でしょうね。2種類のキー入力方法を平行して扱うのは難しいと思いますので、結局は職場に合わせるしかありません。会社のパソコンを自分でカスタマイズできるという環境の方もいらっしゃると思いますが、レアケースだと思います。

と言うことは、会社に勤務する必要がなく、自宅だけで活動できる作家や在宅ワーカー、自営業者しか親指シフトを使えないことになりますね。これは厳しい。

やっぱり1990年代のパソコン黎明期にもっとPRして、「第2のスタンダート」ぐらいになっていれば、、、と思います。そうすれば、今頃はウィンドウズにもサブとして標準装備されていて、キーボードを買い換えるだけで親指シフトマシンになる、みたいなことができたのに。

 
こうやって消えてしまってからこんな話をしても遅いのですが、とても残念な感じがしますね。でも、その開発に携わった神田泰典氏とそのチームの皆さんには心の底から敬意を表したいと思います。


スポンサーリンク