小惑星イダの衛星・ダクティル。小惑星にも衛星が存在することを証明した天体

2020年5月25日

先日、火星の衛星であるフォボスの記事を書いたのですが、フォボスについて色々調べているときに、面白いものを発見してしまいました。

太陽系の主な衛星の比較(wikipediaより)

太陽系の主な衛星の大きさを比較したイメージ図です。これを見て、

「へぇ~、火星の衛星って二つともこんなに小さいんだ」とか
「さすが木星の四大衛星は大きいな!」とか

思いながら眺めていたのですが、ふと違和感を感じました。



図の一番上の段を見てみましょう。

地球 - マーズ - イダ - 木星 - 土星・・・・

 
イダ??

イダって何?!

この図で一番上の行はその衛星に対する主星の名前が書かれてるんですよね。

衛星の名前はダクティル? 主星がイダ?

すみません、どこの異世界の話ですか?!

 

小惑星イダと衛星ダクティル

マジメに混乱しました。「なんじゃこりゃぁ!」と叫びそうになりました。異世界とは思いませんでしたが、太陽系以外の星のデータが混ざっているのかと思ってしまったという。私、結構宇宙の話が好きで割と詳しいつもりでいましたが、「イダ」も「ダクティル」も初耳でした。勉強が足りませんね(汗)

というわけで、まずはイダのお話。

イダは太陽系の小惑星帯(火星軌道と木星軌道の間)にある小惑星で、1884年にオーストリアの天文家ヨハン・パリサによって発見されています。英語表記は「ida」で、文献によっては「アイーダ」と書かれているケースもあるようです。

かなりいびつな形をした小惑星で、その三軸径が59.8 × 25.4 × 18.6kmと小惑星としては特に大きなものではありませんが、はやぶさシリーズでサンプルリターンを行ったイトカワ(長径で535m)やリュウグウ(直径700m)よりは遙かに大きいです。

フォボスの記事の際に少し書きましたが、小さな天体は重力も小さいため、自身の力で球形になれません。重力が大きい天体では、背の高い出っ張りは重力に引っ張られて低いところに落ちていきますので、次第に平面化していき、長い年月をかけて球形に近づくのですが、重力が小さい天体ではその作用が働きません。したがって、このようないびつな形になるんですね。

探査機ガリレオが撮影した小惑星イダの写真(wikipediaより)

1993年にNASAの木星探査機ガリレオがイダに接近観測を行いました。そのときの写真が上の写真です。このとき初めてイダに衛星が存在することが確認されました。写真でも右の方に小さく衛星が写っていますが、これが後に「ダクティル」と命名される衛星です。ギリシャ神話登場するイダ山に住む精霊の名前が「ダクティーリ」だったことに由来するみたいです。



ダクティルの大きさは、三軸で1.6 × 1.4 × 1.2km。主星であるイダよりも遙かに小さな天体ですね。どうやってダクティルがイダの衛星になったかについては、まだはっきりわかっておりません。

探査機ガリレオが撮影したダクティルの写真(wikipediaより)

 

小惑星にも衛星が存在するかどうかの論争に終止符

地球における天文学の歴史は古く、ものすごく小さな天体でも驚くほど古くから知られていたりするのですが、この1993年のダクティルの発見はかなり画期的なものでした。なんといっても、初めて小惑星に衛星が発見されたのですから。

はるか遠い天王星の衛星・オベロンなんて1787年に発見されているのに、初めて小惑星の衛星が発見されたのが1993年です、これには驚きです。まあ、小さい惑星の周りを回っているさらに小さい天体のですから、発見しにくいのはわかります。それにしても、ですよね。このダクティルが発見されるまでは、

「小惑星には衛星は存在しない」

と主張する学者も居たそうなんです。

そうなんです。なぜダクティルの発見が画期的だったかというと、この論争に終止符を打ったからなんですね。衛星というものができあがる過程は何種類もあるのですが、どれにしても主星の重力というものが重要になります。ある程度の重力に引かれないと、周回軌道に乗ることも難しいですからね。実際、重力が大きい木星や土星は大量の衛星を従えています。(2019年現在、木星:79個、土星:82個)

小惑星は重力が小さいため、衛星が出来にくいのは確かだと思います。でも、イダの衛星・ダクティルは、小惑星も衛星が存在するという確かな証拠となったわけです。

そして、「存在することが確定した」ことがこの研究をさらに加速させました。その気で探し始めた天文家たちは、その後数十年の間に200個以上の「小惑星の衛星」を発見しています。

 
はい、ということで、今回は小惑星の衛星の話でした。火星より遠くにある小さな天体の周りを、さらに小さな天体が回っているなんて面白いですよね。これからも、いろんな探査機や最新鋭の望遠鏡が新しい事実を発見してくれることに期待したいです。

一昨日は札幌のファミレスの話題を書いていた私ですが、このギャップもこのブログの醍醐味ということで(笑)